エレベーターを昇った先にあるフロアは人がまばらで、席は10分の1も埋まっていない。出社しているのは大半が非プロパーの社員で、当時まだリモートワークはプロパー社員に限定された利益だった。上司は退職処理に際し、初めて仕事をもらった新入社員のようにうろたえていた。その長い社歴の中で、退職に立ち会った経験は一度もないらしい。僕とその上司の立会いの下、派遣社員が手を動かし、20年前に作られたままの社内システムの中で処理が進んでいく。複雑で使いづらい時代遅れなシステムは、その使いづらさを外部に押し付けることで保たれていた。
そんな感じで前職SIerを辞め、当時シリーズBに入ったばかりのマーケティング系のWebサービスを提供するスタートアップに入った。入社した当時はデータアナリストをやろうと思っていたが、データアナリストの仕事を潰したくてアナリティクスエンジニアに転身した。その後データエンジニアをやり、データチームのマネジメントをやり、データマネジメント全般を手広く手掛けた。
個別のハードスキルは脇に置いといて、スタートアップで働くうえで大事なことを学んだ。スタートアップでは全てが不確実であり、以下のようなものは存在しないかもしれない:
- 自分をマネジメントしてくれる人:マネージャーはいないかもしれない!
- 自分に仕事を与えてくれる人:仕事は自分で探さないといけないかもしれない
- ロールモデル
- 専門知識を提供してくれる人:自分で外部から捕まえてくるか学習しなければならない
- キャリアプランを一緒に考えてくれる人:ロールモデルがいないんだからわからん
- 責任を負ってくれる人:高位役職の人ほど早く辞めるため
- 福利厚生
- 1年以上のスパンで考えられた経営戦略
etc ...
大手企業に一瞬でも身を置いたことがあったが、確かにあの時は上で書いた全部があった。スタートアップに身を置き、これらが存在しない場合もあることを知った。なくても別にいいじゃないか、と思うようになった。
個別のハードスキルは廃れていくが、コアの働き方の部分は長続きする。早い段階で学べたのは良かったと思う。ルールなど何も存在しない状態から入社し、秩序と呼べるものを築き、不確実な状況の中で成果を出していくことは面白かった。
だがそうやって働いていくと、自分の専門分野(つまりデータの仕事)に対してより強くコミットしていくことが求められるようになる。正直データの仕事に限界を感じていたし、この仕事に人生を賭ける気にはなれなかった。別の分野で仕切り直したいと思い、転職することにした。